エストニア児童書センター
児童図書の開発・研究・促進に取り組むエストニア児童書センターを訪問した。その活動から、家庭と教育機関の児童書へのアクセスを拡大する重要性、そして子どもが社会問題について考え議論するきっかけとしての本の可能性が見えてきた。
全ての子どもに「文学の世界への入り口」を
家庭は、多くの子どもにとって初めて本に出会う場所。生まれて初めて触れる本がどんな作品であるかは、子どもの成長にとって重要だ。「gift book(本の贈り物)」は、エストニアで生まれる全ての子どもに児童文学集を贈るプロジェクトである。2007年にエストニア児童書センターが始め、2015年からはエストニア文化省が財源を提供している。本のタイトルは『Pisike Puu(小さな木)』。古典から現代作品までの詩と物語がイラスト付きで紹介されている1)。エストニア児童書センター代表のTriin Soone氏は「この本は、子どもにとって文学の世界への入り口。だから私たちは、どの版にも選りすぐりの作品を盛り込んできた。この本は公立図書館を通じて配布され、子どもが地元のリソースを活用するきっかけになっている」と話す。
エストニア児童書センターへの訪問(2023年2月20日)
エストニアの児童書を教育現場に、世界に広める
「公立図書館、学校、幼稚園が質の高い児童書にアクセスしやすい環境を作ることも、重要な活動の1つ」とSoone氏は言う。子どもが本にふれる機会を増やすには、教育者が児童書に関する情報を得やすい仕組み作りが必要だ。センターは、Estonian Publishers’ Associationと協働してデータベース「ELLSA」を立ち上げた2)。ELLSAを使うことで、子ども向けの本とその作家、イラストレーター、翻訳家の情報をインターネット上で検索できる。
センターは国外に向けたエストニアの児童書の発信にも力を入れる。国際見本市での作家・イラストレーターの紹介や本の輸出促進を通じて、エストニアのクリエイターが世界で認知される機会を創出している。2025年にはエストニアがボローニャ国際児童図書展の主賓国となる。エストニアの児童書を世界にアピールする機会として期待されている。
「小さな本」が人権への入り口に
エストニア児童書センターは「Tiny Books from Baltic Authors(バルトの作家による小さな本)」プロジェクトに参画している。エストニア・ラトビア・リトアニアから36人の作家とイラストレーターが参加し、人権をテーマに18の本を制作した。平等から多様性、障がい、ジェンダーまで多岐にわたるトピックを扱う。「今は、幼少期から人権について考え、議論することが求められる時代。本は、子どもたちが人権についてオープンに話し合うきっかけになる」とSoone氏は言う。本は10の言語に翻訳されており、ウェブサイトから無料でダウンロードできる3)。
「Tiny Books from Baltic Authors」の18冊
謝辞
エストニア児童書センターへの訪問を快諾してくださった、代表のTriin Soone氏、Development ManagerのMarju Kask氏、Communication ManagerのBrita Tuuling氏、Foreign Relations ManagerのUlla Saar氏に謝意を表します。
註
詳細は、Republic of Estonia Ministry of Culture, “Every Estonian New-born to Receive a Gift Book Entitled “Pisike puu,” November 3, 2015, https://www.kul.ee/en/news/every-estonian-new-born-receive-gift-book-entitled-pisike-puu.
詳細は、“ELLSA: Eesti Lastekirjanduse Andmebaas,” https://ellsa.ee/.
ダウンロードは、Vaikų žemė, “Tiny Books,” https://vaikuzeme.lt/tiny-books/.