エストニア国立博物館はエストニアの文化と歴史を守り、伝えていく場所として設立された。タルトゥに位置し、全長355メートルの細長い特徴的な形をしている。天井がとても高く、近づくにつれて圧倒される建物であった。入り口の壁には模様が入っており、細部までこだわっていることがよく伝わってくる。エストニア国立博物館の設計には日本人建築士田根剛氏が携わっており、彼曰く元々軍の滑走路であったことを活かして記憶をつないでいくような奥行きのある設計にしているそうだ。縦長な展示室は先へと進んでいくにつれて時の流れを感じられるものだった。展示はただ作品が無機質に並べてあるのではなく、曲線や木などを用いて有機質的で暖かい雰囲気がつくりだされていた。展示を見る上で固定された順路はなく、心の赴くままに展示を見ることができる。3時間ほど見学したが全てを見切れないほど多くの作品があり、ぜひまた訪れて他の展示も見てみたいと思った。説明はエストニア語で表記されているが、カードをかざすと英語などの他言語が表示され、エストニア語がわからない人にも優しい設計である。エストニア国立博物館は老若男女、国籍を問わず、すべての人が楽しみながらエストニアの歴史を学べる場所であるのだ。
テントの中に展示があったり、実際に中に入れる昔の家が展示されていたり、子ども大人も体験しながら学べる空間であると感じた。子どもが遊べるスペースの壁は一面、歴史をかわいいイラストで描いたロッカーで囲われており、扉を開けてみたいという子ども心をくすぐる場所であった。いくつかの扉の中には家の模型が置かれていたが、全てのロッカーの中にあるわけではないというのもワクワクするポイントなのかもしれない。独立記念日で入館料が無料であったからかもしれないが、大勢の人が集まっていた。館内を子どもたちが走り回っていたり、大人も展示を見ながら意見交換をしていたり、静粛な雰囲気の日本の博物館とは異なり賑やかな雰囲気であった。全体的な展示はエストニアの歴史や文化を伝える作品が多かった。絵画は少なく、昔の調理器具や家具、洋服などが展示されていた。エストニアの中でも様々な民族が存在し、衣装や道具などの展示は地域性を感じるものが多かった。伝統衣装では赤を基調としたデザインが多く、冬の寒さが厳しいエストニアに暖かさをもたらしているように見える。また、装飾品の展示も多く、エストニア人の美しいものの基準が垣間見えたように感じる。1990年代以降の作品も展示されており、過去だけでなく"今"も大切にしている印象を受けた。独立記念を際したコンサートも開催されており、音楽面からもエストニアの文化を感じることができた。男性や女性、鳥、熊、魚などが模られた北欧らしいシンプルなデザインの印象的な記号が壁に散らされており、ミュージアムショップでもそのグッズが販売されていた。この記号がどのように作られ、どのような意味を持つのかなど知りたいことが多々あったが詳しくはわからなかったので、調べてみたいと思う。
エストニア国立博物館の近くには"さかさまの家”と呼ばれる建物もあった。家の外見から室内の細部まで全てがさかさまになっており、普段とは全く違う家の景色を楽しむことができた。私たちだけでなく他のお客さんもその不思議な空間を楽しんでいた。"さかさまの家”はエストニア国立博物館やAHHAAとも繋がりがあり、各施設のパンフレットが置かれていた。エストニアでは学校に限らず、楽しみながら学べる場所が充実していることを実感した。エストニア国立博物館の隣にはレンガ造りの建物の跡地が残っている。歴史ある場所をただ保護するだけでなくレンガとレンガの間に昔の写真をいれていたり、中に階段状のベンチを設けていたり、保存と展示が融合されていた。