私たちは、エストニアのタルトゥ市内にある環境教育センター、Naturel Houseを訪れた。ここは環境教育や活動を提供する施設であり、Hobby Schoolと呼ばれる7歳から18歳までの子どもを対象にした教育活動を展開している。このHobby Schoolは毎年500人以上の子どもたちに年齢にあわせて室内、屋外を問わず自然や環境に関わる様々な学びの機会を提供している。子どもたちはここで自然や環境に触れながらそれらに対する理解を深めることができ、自分で自由に手を動かす経験をすることで、興味の幅を広げ、新しい知識や発見、スキルはもちろん、創造性や分析力を養うことも可能である。
開講される授業
木材を使用した授業
この教室では、子どもたちが木材を使用した作品を自由に作成する授業が開かれる。教室には家庭から集められた様々な形や大きさをした木材が材料として保管されている。子どもが自分のアイデアを形にしようと創作に没頭できる授業であるため、教員は子どもの作業をサポートするのみで指導はせず何を作成するかは子どもたちに任されている。教室は、作業スペースを多くの道具棚や材料で囲むシンプルなつくりである。引き出しにローラースケートのタイヤを使用していることから、モノを再利用し且つ皆が使いやすい工夫を体現している空間であると感じた。印象的だったのは、教員の方の「汚いのは当たり前のことで、ここでは通常の学校のようにきれいに皆の作品を飾ったりしない」という言葉である。Hobby Schoolの授業では作品をつくる態度や姿勢、作品の完成度にこだわっているのではないということを改めて実感した。どのような学び方で何を得るかは個人の自由であり、誰のどんな学び方も実現できるような空間をいかに提供できるかに注力しているのが見えた。
動植物に触れ合う授業
Hobby Schoolには植物や動物に触れ合える環境教育のための施設がある。
まずは、植物園だ。この植物園では、アボカドの木など主に食べ物として使われる植物から、香辛料、建設、薬に使われる植物、カメなどの多種多様な動植物と直接触れ合う機会を提供している。カメの水槽に使われる「水」や、温室を保つために使われる「熱」はそれぞれ雨水、コンピューターから放出される熱を再利用している。また、動植物の成長に必要不可欠な「光」は、電気の代わりに大きな窓を設置することで自然光を取り入れるように工夫され、循環型社会が可視化されている。
いくつかの木にはウクライナの国旗のタグがつけられていた。その理由として、職員さんから、ロシアとの戦争で避難を余儀なくされた子どもたちが「エストニアを''home''だと感じられるように」という説明があり、ウクライナの子どもたちへの配慮も見てとれ、心が温かくなった。
子どもたちの人気も高い動物に触れあえる部屋では、剥製が展示され、ウサギやカメ、チンチラ、ハムスターなどの小動物から鳥類まで多種多様な動物が飼われていた。エストニアの通常の学校では、休暇中の世話に手間がかかるため動物は飼われていない。しかし、ここでは子どもたちが自分の目で見て自由に動植物に触れ合う経験を通して、読んだり、書いたりするだけでは得られない自然環境への学びを深めていく。ここで飼われている動物は教員が持ち回りで世話をするが、休暇中子どもたちが自宅で世話をすることも可能だ。子どもが動物を自分自身で世話をする姿を親が見守ることで成長を確認できるからであるという。子ども自身が実際に五感で体感できる学びがあることはもちろん、その様子を保護者も間近で見守ることも視野にいれているのはHobby Schoolが実施する教育の重要なポイントであると思う。
自由な創作の授業
私たちは授業中の教室の様子も見学することができた。この教室では子どもたちが紙やペン、テ―プなど様々な素材や画材を使用して自由に創作活動をしていた。壁には教室のルールが貼られているが、教員は子どもたちに何かを教えることはなく、創作する姿を見守るだけである。子どもたちが楽しそうに作業に集中している姿が印象的で、「この場所にずっと居たい」くらい好きな時間であると、教員も子どもも口にしていた。Hobby Schoolでは全員がルールを共有しながらも、決してそれは個人の行動を制限せず、誰でも楽しく自由に過ごせる環境が成立していることが分かった。机の上には創作に使用する材料とともにタブレットも置かれており、書いたり読んだりするような学び以外でもICTがツールとして活用されている様子を確認することができた。
教室外での環境教育
サステナブルな学びの場
このNature Houseは、後々建物をこわす際の影響も考え、環境にやさしい形で建設されている。床や天井にはリサイクルされた素材を使用しており、光や熱などのエネルギーもサステナブルな形で施設を循環している。このような場所で学ぶということ自体が、自然と子どもたちの環境への理解を深め、意識を高めているとを実感した。また、館内にもエネルギーの循環が可視化された図や、自分の衣服の素材が世界のどこで生み出されたのかが分かる地図、ジュースの紙パックで作成したアート作品などがあった。これらの展示から、環境に配慮した行為とはどのようなことなのか、という理解にも繋がっていると分かった。
6種類のゴミ箱
Nature Houseでは、資源の再利用をしやすくするため、6種類のゴミ箱が設置されている。左から、紙と段ボール、包装、ボトルとカン、生物分解性のあるゴミ、バッテリー、その他のゴミとあり、その下には具体的にどの製品が投棄可能で、どの製品が投棄不可能という説明が分かりやすく書かれている。こうした細かな取り組みが「複雑で面倒臭い」イメージのある「分別」に対する人々の意識を変え、それが子どもに伝達されることによって、私たちの美しい地球を守っていくことに繋がると、身を持って感じることができた。
環境教育の難しさ
わたしたちは環境教育の実際の方法を見ることで、通常の学校でも活用できるような様々なアプローチがあるということが分かった。一方で、環境教育はこのような自由な学びを展開できるHobby Schoolだからこそ成立しているということも言える。今回私たちに案内してくださった方は、自由に学ぶ形の方が子どもたちのモチベーションは高まり、より自ら学ぼうとするのだと話していた。Hobby Schoolは明確なカリキュラムのもと集団での教育を展開しながらも、子どもの周囲の人々をまきこみ、一人ひとりの子どもたちが自由に学べる時間も担保している。学校等の教育現場で環境への理解や意識を育むことがいかに難しいのか、今回のHobby School訪問を通して痛感することとなった。
タルトゥ環境教育センター:https://www.tartuloodusmaja.ee/