本プログラムはエストニアに造詣の深い丸山先生の尽力により2016年から毎年開催され、今回で6回目を迎えた。ただしパンデミックの影響を受けて2020年度は中止、2021年度はオンライン開催と続き、今回は実に3年ぶりとなる渡航であった。2022年度の参加学生は2019-2022年度の入学生であり、誰もがパンデミックにより少なからぬ制約を受けたキャンパスライフを経験した。かくいう私自身も大学生活の後半は「感染対策」とともにあり、パンデミック下で社会人となったため、その不自由さとやりきれなさは身に沁みている。それだけに学生たちの「実体験」への渇望はひとしおであり、現地で見聞きし触れたものは鮮烈な印象を伴って記憶されたことだろう。初めて飛行機を降りた時の肌を刺すような冷気、雪を踏む音しか聞こえない森林の静けさ、暖炉の暖かさと火のはぜる音、温かく迎え入れてくれたエストニアの人たちの笑顔、独立記念日に翻る三色旗と人々の合唱。私たちがスタディーツアーを振り返る時、各訪問先で知り得たものはもちろんだが、五感に残ったエストニアの記憶も鮮明によみがえるに違いない。
雪の上に思いきり寝ころんでみる。エストニアの冬を全身で触れた感覚がまだ残っている。
また、今回の渡航は折しもロシアがウクライナに侵攻を開始した日よりちょうど1年を迎えようとする時期であった。奇しくも「その日」はエストニアの独立記念日であり、私たちは滞在中に様々な場所や場面でエストニアにおける「ウクライナ侵攻」の表出を目の当たりにした。街の至るところにある青と黄の配色や戦争反対のポスター、故意に消されたロシア語。そういった戦争の片鱗がエストニア社会にすっかり溶け込んでいることが、何よりこの小さな国の立ち位置を物語っているようだった。また期せずウクライナからの避難学生との交流の機会があり、彼らとの会話や彼らの表情を通して私たちが肌で感じとったことは、日本にいれば決して得られなかったものに違いない。
学びの本質は、五感を十二分に使って「感じる」ことにあるのではないか。今回のスタディーツアーを通じて私はそのような思いを強くした。
各自の関心に基づいて現地の方にインタビュー。それぞれの気づきは一日の終わりのリフレクションで共有し、深化させた。